建築家 谷尻 誠 × ベツダイ 林 哲平 Vol.02

ベツダイ × SUPPOSE DESIGN OFFICE × ELLE DECOR3社共同商品開発プロジェクトの舞台裏に迫る対談、第2段。設計を担当したSUPPOSE DESIGN OFFICE 谷尻誠氏と、本企画の仕掛け人であるベツダイ広報部長の林哲平の対談の場を設けた。SUPPOSE DESIGN OFFICEの共同主宰者 吉田愛氏を交え、さらに深い話題へと続く。

相反するものを共存させる、シンプルで明快な答えを求めて。

▲Suppose design officeの共同主宰者、吉田愛氏

林: 今回、規格商品にチャレンジしてもらったのですが、これまで規格住宅に対してどのように思われていましたか?


▲ベツダイ 林

谷尻: あまり否定的なイメージはないです。それがあることで特注品が顕在化しているわけで…。規格には規格の良さがあるので、ニーズとしてどこを求めているかの違いだけだと思います。規格ということは、よりブランディングされるということ、一点ものはブランド化しにくわけですから。ブランドに頼むことはあっても、その建物がブランド化するわけではない。価値がどこにあるかだけの話です。


林: このようなプロジェクトを手がけることで、自社ブランディングが失われる不安はなかったのですか?


谷尻: 全くありませんでした。むしろやったほうがいいと。通常、高級な住宅をつくる人と、スタンダードなものをつくる人とは別だと定義されていますよね。そう考えると、相反するものを共存させるということができれば、より幅を持った設計事務所だということになります。それを今、できる人は少ないはず。全身ワンブランドで着飾るよりどこか崩したいなという想いもありました。


林: ハイブランドのお客様といちばんのボリュームゾーンのお客様の混在感がこのプロジェクトの一番面白いところですよね。


谷尻: ヒエラルキーを持っているのは各々の個人で、そんなのは本当はないんです。僕はちゃんと企んでいます。自分だけ良くなるのではなく、「企んでますよ」と正直に言っているし、皆さん「野心」とか「企み」を隠したがるけど、自分はオープンにして「騙されてもいいならやろうよ」というスタンスです。


林: 今回、狭小地に建つ家というコンセプトでつくっていますが…。


谷尻: 狭小地は条件が厳しいですよね。法的な条件、敷地も含めさまざまなものが制約されているわけで。でも自分だけが条件にさいなまされるわけではない。あらゆる設計者がそれで悩みます。そんななかでシンプルで明快な答えが出せるということは、価値としてはわかりやすいと思います。

バスケットが教えてくれた、少し離れた視点の大切さ。

林: 谷尻さんは建築家として、どうありたいとお考えですか?

▲谷尻氏の著書「談談妄想」

谷尻: 根源的なところでは、アトリエをつくることは華やかなところで活躍していると自分には写っていて、ある種サラブレッドみたいな存在に感じていました。でも自分は、いまさらサラブレッドになれるわけではない。サラブレッドになるには時間もいるわけで。

自分はロバかもしれないけど、G1のレースでサラブレッドと一緒に走るためにはどうすればいいかを考えていたとき、高校時代にバスケットをやっていたことを思い出しました。身長が低く体格的には厳しい自分が試合で活躍できるようにと、3ポイントのラインからシュート練習を重ね、目をつぶっていても入るようになりました。でも、いざ試合になって練習のポジションから打とうとすると、当たり前だけど邪魔されます。もがき苦しんでいるうちに、3ポイントラインというのは、3ポイント取れるという利点と同時に、相手に今から3ポイント取りに行くよと教えるラインでもあることに気づいたんです。

それから1メートル離れて練習を始めました。それは僕にしか見えない線。試合に挑むと誰にも邪魔されずにシュートを放てました。ゴールから遠くなるという、本来は不利な状況だけど、圧倒的優位性を手に入れる手段だったのです。相手にとっては守る範囲が広くなるので、外を守ろうとすれば中が空き、中のプレーヤーは動きやすくなる。

それによってチームは格段に強くなりました。僕が学生時代に経験した1メートル離れた視点と同じような感覚を大切にしながら、この業界を見ることができる、そんな建築家でありたいと思います。

社会の繋がりや世の中の人が求めているニーズ、本当はこうして欲しいと頼みたいけど、頼みにくいとこと…。僕はサラブレッドではないけれども、建築家はそういう状況をなくすのが本来の使命だと思います。


林: バスケットでの経験が、今の谷尻さんの視点をつくったんですね。これからの活動でイメージされていることはありますか?


谷尻: 世の中、優秀な人より落ちこぼれの人が圧倒的多数なんです。でも、そういう人が努力したり、考えたり、工夫したりすることによって、いろんなことが変わっていくというのは、多くの人に共感されることだと思います。だからこそ、もっと建築家と社会が近づくことができないかなと。そのきっかけづくりを、これからも自分なりにやっていくつもりです。

谷尻 誠 / Makoto Tanijiri
1974年広島県生まれ。94年穴吹デザイン専門学校卒業後、設計事務所勤務を経て、2000年建築設計事務所Suppose design office設立。建築をベースとして、新しい考え方や関係性の発見をテーマに掲げ、常に豊かで楽しい建築の可能性を提案し続けている。 – SUPPOSE DESIGN OFFICE



エル・デコ / ELLE DECOR
ELLE DECOR(エル・デコ)は、ファッション誌ELLE(エル)のファミリー誌として1987年にパリで誕生。インテリアとデザインの視点から、洗練されたライフスタイルを語る雑誌として、世界的にも有名なインテリア情報誌です。現在、世界33の国と地域で発行されています。 – ELLE DECOR(エル・デコ)世界のインテリア情報